【鹿ヶ谷叢書013】
『戦時期中日文芸文化網絡(ネットワーク) 交錯する力線』

戦時期の中国と日本で編まれた多様な日本語刊行物から、両国の人的・文化的な交渉の諸相を「文芸文化ネットワーク」の観点から紐解く新たな試みの出発。

戦時下、様々に人々の移動が繰り返され、異なる言語やバックグランドを背景に複雑な人的・文化的な交渉が繰り返された中国の諸都市。
そこでは、戦争という時代の中で国家や権力と協調/対峙しながら数多の日本語刊行物が生み出されていった。

そうした刊行物が生み出された磁場を、「どのような意図・経路で、どのような人たちが形作ったのか」=「文芸文化ネットワーク」というキーワードを駆動させ、これまで総合的にとらえられることの少なかった地域も視野にいれながら探究する。

日本と中国の研究者がつむぐ、これからの東アジアの近代日本語文化研究の新しい試み。

 書籍概要

  • 編:在華日中文学資料研究会(代表 大橋毅彦)
  • 定価:本体5000円+税 ISBN978-4-911589-35-9 C3090
  • 体裁:A5判・上製カバー装・約380頁
  • 装丁:野田和浩
  • 2026年8月刊行予定

 目次

はじめに 文芸文化交渉の生きた手応え 大橋毅彦

第1章 改造社の出版戦略
山本實彦の対中文化工作と汎アジア主義 石川巧

『改造』「現代支那号」にかかわった外交官・小畑薫良と欧米派の作家たち
―楊振声、丁西林、徐志摩、凌叔華とその作品について 中村みどり

「国民雑誌」としての改造社『大陸』―日中戦争期の「大陸問題総合誌」の変容と終焉 秦剛

第2章 交錯する中国表象
複数のカメラと北方中国―北川冬彦『レール』から『曠野の中』へ 多田蔵人

北川冬彦の「阿Q正伝」脚色―執筆背景と「シナリオ的置きかへ」の実験― 曲莉

阿部知二『北京』における加茂のモデル考
―片山英夫『訪満華語講演旅行記』を手掛かりにして 王成

第3章 地域(ローカル)メディアの諸相
戦時下天津における日本語文芸活動―『京津日日新聞』文芸欄「月曜文芸」を出発点に― 王羽萌
『京津日日新聞』文芸欄「月曜文芸」細目 作成:王羽萌

戦時杭州の日本語文化空間――『浙江文化研究』再探 木田隆文
『浙江文化研究』細目 作成:木田隆文

戦時上海における東亜同文書院とメディア空間 牛路遥

戦争末期上海のメディアと現地文学者―堀田善衞を手がかりとして 陳童君

総論 ネットワーク再編
二つの変圧器から生じる新たな交流回路
―版画家田川憲ならびに翻訳家室伏クララ研究にとっての一九四八年― 大橋 毅彦

おわりに 中村みどり

 プロフィール

大橋毅彦(おおはし・たけひこ)

東京都生まれ。現在、関西学院大学文学部名誉教授。博士(文学)。
著書に、『D・L・ブロッホをめぐる旅―亡命ユダヤ人美術家と戦争の時代』(春陽堂書店、2021年)、『神戸文芸文化の航路』(琥珀書房、2024年)、『戦争の中の〈美心〉ー版画家田川憲「上海日記」・木刻小報『龍』を読み解く』(琥珀書房、2025年)ほか。『昭和文学の上海体験』(勉誠出版、2017年)にて第26回やまなし文学賞(研究・評論部門)受賞。

石川巧(いしかわ・たくみ)

秋田県生まれ。現在、立教大学文学部教授。博士(学術)。
著書に、『高度経済成長期の文学』(ひつじ書房、2012年)、『幻の雑誌が語る戦争 『月刊毎日』『国際女性』『新生活』『想苑』』(青土社、2017年)、『読む戯曲の読み方―久保田万太郎の台詞・ト書き・間』(慶應義塾大学出版会、2022年)、『群衆論―近代文学が描く〈群れ〉と〈うごめき〉』(琥珀書房、2024年)ほか。

中村みどり(なかむら・みどり)

東京都生まれ。現在、早稲田大学商学部教授。博士(文学)。
共著に、『上海モダン 『良友』画報の世界』(勉誠出版、2018年)、
『久保田万太郎と現代 ノスタルジーを超えて』(平凡社、2023年)、『内山完造研究の新展開』(東方書店、2024年)、『越境する革命──『吼えろ、中国!』と東アジアの左翼芸術運動』(森話社、2025年)ほか。

秦 剛(しん・ごう)

吉林省長春市生まれ。現在、北京外国語大学北京日本学研究センター教授。博士(文学)。
主著に宮坂覺編『芥川龍之介と切支丹物 多声・交差・越境』(翰林書房、2014年、共著)、坪井秀人編『東アジアの中の戦後日本』(臨川書店、2018年、共著)、竹内栄美子・高橋誠一郎・野村剛・丸山珪一編『堀田善衞研究論集 世界を見据えた文学と思想』(桂書房、2024年、共著)、壺井栄『絣の着物 壺井栄戦争末期短編集』(琥珀書房、2025年、編集・解説)ほか。

多田 蔵人(ただ・くらひと)

山形県生まれ。現在、国文学研究資料館准教授。博士(文学)。
著書『永井荷風』(東京大学出版会、2017年)、編著『荷風追想』(岩波書店、2020)、『文体史零年』(文学通信、2025年)ほか。

曲 莉(きょく・り)

中国吉林省生まれ。現在、北京外国語大学日本語学部講師。博士(文学)。
論文に、「芥川龍之介「湖南の扇」論」(『国語と国文学』98(1)、2021年)、「芥川龍之介『支那游記』に登場する「石黒政吉」とは誰なのか : 南京督軍顧問多賀宗之宅に掛けた「田夫氏の画」の考察をかねて」(『アジア遊学』308、2025年)、「芥川龍之介「上海游記」の一断片 : 関係資料調査から見えてくる東道主・村田孜郎の働き」(『日本研究』72、2026年)ほか。

王 成(おう・せい)

中国山東省生まれ。現在、中国・清華大学教授。博士(文学)
著書に、『「修養時代」的文学閲読ー日本近現代文学作品研究』(北京大学出版社、2013年)、『東アジアにおける旅の表象ー異文化交流の文学史』、(勉誠出版、2015年、共著)、『近代日本人的中国紀行研究』(商務印書館、2024年、共著)。

王 羽萌(おう・うほう)

中国・天津生まれ。立教大学文学研究科日本文学専攻博士課程後期課程所属。
主要業績に、神山彰・後藤隆基(編)『倉林誠一郎日記1947-1952 ー制作者からみた戦後演劇の記録―』(雄山閣、2026年6月)に編集協力・共同執筆、論文「区分を〈かきまぜる〉 ―開高健「兵士の報酬」論」(『立教大学日本文学』131号、2024年3月)、論文「「序」であり続ける「学習」―富士正晴「帝国軍隊に於ける学習・序」論」(『立教大学日本文学』129号、2023年1月)ほか。

木田 隆文(きだ・たかふみ)

京都市生まれ。現在、奈良大学文学部教授。博士(文学)。
著書に、『上海文学 復刻版』(琥珀書房、2022年)、『日本未来派、そして〈戦後詩〉の胎動―「古川武雄宛池田克己書簡」翻刻・注解/詩誌『花』復刻版』(琥珀書房、2024年)、『旅順(コレクション・近代日本の中国都市体験 第4巻)』(ゆまに書房、2025年)ほか。

牛 路遥(ぎゅう・ろよう)

中国吉林省生まれ。現在、華東師範大学外国語学院専任講師。博士(文学)。
著書に、『井上厦喜剧艺术研究(井上ひさしの笑い)』(上海交通大学出版社、2026年)、論文に、「井上ひさし『小林一茶』論―「江戸は反吐」の諧謔」(『跨境』、2025年6月)ほか。

陳 童君(ちん・どうくん)

中国江蘇省常州市生まれ。現在、南京理工大学教授。博士(文学)。
著書に、『堀田善衞の敗戦後文学論』(鼎書房、2017年)、『在華日僑文人史料研究』(上海人民出版社、2020年)、『戦後日本文学中国専題研究』(浙江工商大学出版社、2024年)、『面向中国:中日文化研究所的戦後時代』(上海人民出版社光啓書局、2026年)ほか。

 版元から一言

大きな共同研究の成果を、ようやく形にすることができました。
コロナ前からスタートされた「国際共同研究加速基金(強化B)」という枠組みの科研プロジェクト「戦時下の北京・上海及び周辺都市における日本語出版物と文芸文化ネットワークの研究」になります。

「中国の各都市、各地域の文学動向に興味関心を持つメンバーが集まって、一九三〇年代から四〇年代にかけてというその同じ時期に、北京・上海とその周辺の都市・地域にあってはどのような文学者の活動があり、どんな文芸書や雑誌の出版がなされていたかについての情報交換、知識の共有」(「本書はじめに」より)からスタートされた今回の研究。中国の若手の研究者の方も参加され、幅広い世代と関心で展開されていったと感じます。

3度、シンポジウムも開かれるなかで、特に若い方へ様々な意見もでて、そうしたやり取りを踏まえて、それぞれのご論考が磨かれていく様子を感じることができました。

天津や浙江省など、これまで触れられることの少なかった諸都市へも目をむけ、それぞれの場が各地とつながりをもちながら、時代の中で刊行物を生み出していたことを感じていただける内容になっているかと思います。

そして、中国だけでなく、第1章で3名が論じる改造社についても、いずれも非常に面白い内容となっております。

今回、コロナなどで現地調査については予定通りいかなかったことをお聞きしていますが、今後も、多くの方が「文化ネットワーク」の探究を広げていかれることと思います。
本書が、そうした試みの一つの道標になりましたら、版元として何よりだと感じます。

書籍タイトルは、どうやって読むか、わかりづらいと思いますが、あえてこうした名前をつけさせていただきました。
本書は、正式な英語タイトルはありませんが、下記の様なイメージになるかと思います。
Crosscurrents of War: Sino-Japanese Literary and Cultural Networks
せめぎあう「交錯する力線」。「Crosscurrents(逆流・交錯する潮流)」な時代の言論・文化の様相をとらえようとされた狙いが本書から伝わっていけばと思います。

大橋先生とは、かれこれもう3点目の仕事になります。
「在華日中文学資料研究会」はじめ、大橋先生は他にもいくつも調べていきたい「宿題」をお持ちのようで、楽しそうな話を聞いています。
日本と中国の関係は現在むずかしい時代ですが、研究者や民間のつながりや協働がこれからの良い時代をつくっていけるよう、大橋先生に負けないよう、一版元としてもがんばっていきたいものです。