【鹿ヶ谷叢書006】
鮎川信夫と戦後詩―「非論理」の美学

 

「論理の人」鮎川信夫のもう一つの側面。「一つの中心」と「非論理」をキーワードに迫る、鮎川信夫と「荒地」が戦後詩の軌跡に与えた大きな余波。

 書籍概要

  • 著:宮崎真素美〈愛知県立大学日本文化学部国語国文学科教授〉
  • 定価:本体5,200円+税 ISBN978-4-910993-59-1
  • 体裁:46判・上製カバー装・約300頁
  • 2024年11月刊行

 目次

目次
1.鮎川信夫と金子光晴ー愛をめぐる「すごい詩」
2.リリシズムはやはり僕をしめつけますー詩人鮎川信夫の出発
3.戦時下における〈水〉の形象ー「LUNA」クラブの詩人たち
4.紀元二六〇〇年の反照ー内閉と崩壊、そして虚無
5.「他界」から照らす「生」ー北川透「戦後詩〈他界〉論」にふれて
6.「一つの中心」ー論理化しないという論理
7.一九四七年の思惟ー『荒地』・『肉体』・「桜の森の満開の下」
8. 「繫船ホテルの朝の歌」と中原中也ー〈倦怠〉をうたう詩人たち
9.黒田三郎・「蝶」の来歴ー〈白い美しい蝶〉に結ぶもの
10. 「荒地」と『詩学』
11.「歌う詩」と「考える詩」ー詩劇をめぐる声
12.反芻される「荒地」ー継承と批判の六〇年代
13.大岡信と鮎川信夫ー詩はまるで、愛のようなものだ

初出一覧
あとがき
人名索引

 著者プロフィール

宮崎真素美(みやざき・ますみ)

1964年愛知県生まれ。1992年筑波大学大学院博士課程文芸言語研究科単位取得満期退学。
現在、愛知県立大学日本文化学部国語国文学科教授。博士(文学)。
主な著書に『鮎川信夫研究―精神の架橋』(日本図書センター、2002年)、『戦争のなかの詩人たち ―「荒地」のまなざし―』(学術出版会、2012年)などがある。

 版元から一言

鮎川信夫の研究を早い時期から行ってこられた、宮崎真素美先生の3冊目となる研究書を担当させていただきました。
多くの蓄積がある鮎川信夫についての批評・研究史と紐づけて紹介することは私の手にはおえませんが、本書では「論理の人」とイメージされることの多い、鮎川信夫のもう一つの側面を描き出したお仕事を世に出すことができました。

エリオットを早い時期から紹介した英文学者深瀬基寛への関心から、エリオットの「荒地」/「文化の定義のための覚書」(中公文庫)を手にとったことはありますが、簡単に咀嚼できるはずもなく。そんな私ですが、本書からいろいろな刺激を感じました。
西田幾多郎の『國體の本義』、『日本文化の問題』と同時代の詩人たちの言葉をあわせ鏡にした四章。そして、再び西田幾多郎の言葉をとっかかりに、鮎川信夫を考えるうえで重要な「一つの中心」という概念を探求した六章。
言葉や概念を導く、引力の中心にあるものをとらえようとするかのような感覚を味わえると思います。

せっかくなので昔に一度ふれたときから深い印象を残す鮎川信夫の作品「橋上の人」の一節を。この一節は、上記の四章と六章をつなぐ、重要な役割を果たしています。
(ちなみに「橋上の人」については、戦中から戦後にかけて改稿が重ねられた作品で、ぶ厚い批評や研究の蓄積があるかと思います。)

誰も知らない。/未来の道は過去につづき/過去は涯しなく未来のなかにあることを
(鮎川信夫「橋上の人」第三作(昭26年7月))

昔の記録を残す仕事をしている版元の私自身に、思わず重ねてしまう鮎川信夫の一節でした。

今回の本の編輯を通じて、少しは「荒地」の世界をのぞけた気がしております。
吉本隆明との呼応や、戦後のある時期から詩をつくることをやめた鮎川信夫のその後といったことも、より追いたくなった次第です。

本書は、鮎川信夫が絶賛した金子光晴の「すごい詩」からはじまり、「詩劇」と戦後詩の関わり、「荒地」と六〇年代、大岡信の鮎川論など、多彩な論考がならびます。
本書を通して、「荒地」や鮎川信夫の世界をのぞいてみたくなる人がいらっしゃることを版元として願うばかりです。
(北海道の友人にもすすめられた鮎川信夫『戦中手記』(思潮社)についても触れたかったですが、それはまた別の機会に。)