<刊行予告>【鹿ヶ谷叢書】
カミュ『異邦人』/ 窪田啓作の戦中・戦後 若き翻訳家の肖像

『異邦人』を訳した「異邦人」窪田啓作。「翻訳家を求めて」たどる唯一無二の初評伝。

「青年たちは、戦前の若者たちが一度はドストエフスキーを通らずにおれなかったように、ほとんどがカミュの洗礼を受けるといった風潮」(河盛好蔵『新潮社七十年』、一九六六年)

戦後日本における海外文学の受容のなかで比類がない影響力をもつ、カミュ『異邦人』。

しかしながら日本のおける『異邦人』愛読者のほとんどは、訳者窪田啓作(1920-2011)が堀辰雄の愛弟子であり、戦中期、中村真一郎、福永武彦などと日本語による定型詩運動「マチネ・ポエティック」を提唱・実践した気鋭の詩人であり、戦後は石川淳に激賞された短篇作家であり、マチスやシャガールを自在に語る美術批評家でもあったという事実を知ることがない。(「はじめに」より)

カミュ『異邦人』はそもそも戦後日本文学に、いかなる主題や小説形式やキャラクターを新たにもたらし、いかなる「他者」との出会いと試練の場を用意し、戦後日本の文学・文化のシステムをいかように組み替えていったのか。

そして、窪田啓作という文人翻訳家が、戦時下から占領期末期にかけて、定型詩運動から短篇小説を経て翻訳を手がけるに至った道筋をたどったのか。

その翻訳者としての営みを、『異邦人』以降の翻訳活動も視野に入れて可能な限り可視化することを目指す、比較文学の視座をもとに「翻訳家を求めて」たどる唯一無二の評伝がここに。

 書籍概要

  • 編著:井上健(東京大学名誉教授、日本比較文学会元会長)
  • 協力・寄稿:小梁吉章(広島大学名誉教授)
  • 共著:高塚浩由樹(日本大学教授)
  • 予価:本体-円+税 ISBN978-4-911589-65-6
  • 体裁:46判・並製カバー装・約-00頁
  • 2026年夏刊行予定

 目次

はじめに——なぜ今、窪田啓作を考えるのか?(井上健)

[1] 「作家・翻訳家窪田啓作の行程と戦後日本における窪田訳『異邦人』の波動——一九五十年代と六十年代を中心に」 (井上健)
はじめに
(1) 日本近現代文学における堀辰雄「山脈」の系譜——中村真一郎、福永武彦、加藤周一、そして窪田啓作 
(2) 一九五十年代日本における外国文学翻訳の位相——フランス文学からアメリカ文学へ

1. 作家・翻訳家窪田啓作の戦中と戦後 
(1) 戦時下「抵抗」としての定型詩実験――窪田啓作と「マチネ・ポエティク」詩集
(2) モダン都市上海における「境界」のトポス――「銀行員」窪田啓作の上海体験 
(3) 短編集『掌』(一九四八)から『街燈』(一九九〇)まで——定型詩から短篇創作へ
(4) 窪田啓作訳『異邦人』がもたらしたもの——翻訳文学における語りと人称と時制と物語構造の問題

2. 窪田訳『異邦人』は戦後日本文学に何をもたらしたのか
(1)「『異邦人』論争」(廣津和郎×中村光夫、一九五一)再考——再び、「近代」リアリズムの在処をめぐって
(2) 安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)——「ママン」の崩壊と死を見つめる
(3) 倉橋由美子『パルタイ』(一九六〇)——「八〇パーセント以上窪田啓作訳『異邦人』の文体」(倉橋)は本当か?
(4) もう一人の『異邦人』の可能性——中村光夫訳『異邦人』(一九六五)をめぐって

3. 翻訳家窪田啓作の『異邦人』後——言語間翻訳から言語内翻訳へ
(1)『エリュアール詩集』(一九五二)——「歌いやめなかった」詩人の肖像
(2) バンジャマン・コンスタン『セシル』(一九五三)——宿命の心理劇を訳す
(3) 石川淳短篇集編纂(一九五四、五六)とカミュ初期散文・短篇集の翻訳(一九五五~五七)
(4) 謡曲翻訳の試みへ——世阿弥元清「野宮」、「江口」、「綾鼓」、「芦刈」の現代語訳

4. むすびに代えて
(1) 『異邦人』の一九六十年代——加賀乙彦『フランドルの冬』(一九六七)における「異邦人」たち
(2) ムルソーは老いたのか?——一九六八年日本の『異邦人』とルキノ・ヴィスコンティ監督『異邦人』(一九六八年日本公開)

5. 文献(読書案内)

[2]「フランスにおける『異邦人』の受容」(高塚浩由樹=日本大学教授) 

[3]「窪田啓作の訳したカミュ」(高塚浩由樹)

[4] コラム ❋後日公開

[5] 回想の窪田啓作(小梁吉章=広島大学名誉教授)

[6] 窪田啓作短篇作品梗概

[7] 窪田啓作著作一覧

[8] 窪田啓作(窪田開造)年譜(小梁吉章)

[9] あとがき・謝辞(井上健)

 プロフィール

窪田啓作(くぼた・けいさく)

1920年東京生まれ。本名、窪田開造。暁星小学校・中学校に学ぶ。
1938年、第一高等学校入学(文科丙類)同校で加藤周一、中村真一郎、福永武彦、白井健三郎氏らと交友。
1941年、東京大学・法科入学。1943年、東京大学法科を繰り上げ卒業、横濱正金銀行に入行。
1946年、引揚船で本邦へ帰還、戦後、東京銀行にて勤務。1947年、短編「陳靜芝」を『綜合文化』創刊号に発表。
1947年、雑誌『詩人』に加藤周一らとともに「マチネ・ポエティク作品集」を発表。
1948年、短編集『掌』(河出書房・方舟叢書)を出版。
1951年、アルベール・カミュ「異邦人」を翻訳。『新潮』6月号掲載を経て、新潮社から単行本として刊行。
1962年、欧州東京銀行・頭取。
1996年、短編集『街燈』を出版(平凡社)。
2011年、死去。

井上健(いのうえ・けん)(編集)

東京大学名誉教授。
1948年生まれ。著書は『作家の訳した世界の文学』(丸善、1992年)、『翻訳の方法』(共編、東京大学出版会、1997年)、『比較文学比較文化ハンドブック』(共編、東京大学出版会、2024年)。

小梁吉章(こはり・よしあき)(協力・寄稿)

広島大学名誉教授(元大学院法務研究科教授)。
1974年月株式会社東京銀行入社。
2003年広島大学法学部教授・大学院社会科学研究科教授。
著書に、『フランス倒産法』(信山社、2005年)、『フランス信託法』(信山社、2011年)。

高塚浩由樹(たかつか・ひろゆき)(共著)

日本大学国際学部教授。
主な論文に、「アルベール・カミュ『手帖』における修正の問題 ― 「決定稿に基づく定説」の再検討」など。

 版元から一言

準備中。