東アジアの女性雑誌を広く同時に見渡した時、浮かび上がる女性たちの文化生産と連帯の可能性。
雑誌から浮かぶ国際的な問題に対する意識、文化生産への寄与、そして雑誌が生成した女性たちの関係性。
3つの問いを中心に、2018年より積み上げられた国境と言語を越えた共同研究の成果。
日本、朝鮮、中国、台湾、満洲、各地域の女性雑誌の概況をまとめた論考を含む、全12章、8コラム。
異なる言語を含む各地域の多種多様な女性雑誌の分析から立ち上がる、東アジア激動期の女性たちのネットワークとその可能性がここに。
女性雑誌は、「女性」というジェンダーに輪郭をあたえる規範を構成するとともに、私的な領域と公的な領域を接続し、女性たちが連帯し抵抗する場となり回路となった。
本書は、今日とは異なる地政学的な関係性のなかで思想や言説が交錯する一九三〇年から一九四五年の東アジアにおいて、女性の文化生産のありようが時代と交渉し切り結ぶさまを女性雑誌という実践を通して明らかにするものである。(本書「はじめに」より)
第一部「規範形成・参照と差異化」
第二部「ネットワーク生成の装置」
第三部「雑誌文化と戦時の力学」
書籍概要
- 編集:飯田祐子、呉佩珍、孫知延、星野幸代
- 定価:本体4,800円+税 ISBN978-4-911589-32-8
- 体裁:A5判・並製カバー装・約360頁
- 装画:Leonie Raijmakers(PhD,Independent Artist)
- 装幀:こはく図案室
- 2026年3月刊行
目次
はじめに(飯田祐子)
第一部「規範形成・参照と差異化」
第一章 植民地期朝鮮の女性雑誌における「日本語」と読者としての朝鮮女性
―『我々の家庭』と『家庭之友』にみられる「諺文」と「日本語」のはざま(張 ユリ)
●コラム1 中国一九二〇―一九四〇年代の女性雑誌(星野幸代)
第二章 台湾における女性雑誌と文学圏域の形成
―『台湾愛国婦人』と『台湾婦人界』を中心に(呉 佩珍)
●コラム2 『台湾婦人界』の女性記者(笹尾佳代)
第三章 制度/運動のかなたの「母性」
―『婦人戦線』における植民地と産児制限/調節 (中谷いずみ)
●コラム3 『年鑑』と『名鑑』からみた日本における女性雑誌の流通(光石亜由美)
第二部「ネットワーク生成の装置」
第四章 女性ジャーナリストたちの社会運動
―全関西婦人連合会機関誌『婦人』におけるネットワークの生成(笹尾佳代)
●コラム4 女工の雑誌『泉の花』(飯田祐子)
第五章 女性雑誌と一九三〇年代アジアにおけるシスターフッドの形成
―中国女性雑誌『女子月刊』を手掛かりに(魏 晨)
●コラム5 台湾最初の商業女性雑誌『婦人と家庭』(張 文聰)
第六章 植民地朝鮮における女性解放と身体政治
―社会主義系女性雑誌『女人』の産児制限関連記事を中心に (孫 知延・光石亜由美)
●コラム6 朝鮮における女性雑誌の新たな試み、妓生雑誌『長恨』(張 ユリ)
第七章 左翼女性雑誌と商業女性雑誌の連続と不連続
―『働く婦人』における戦略的実践(飯田祐子)
第八章 戦時「留東婦女」と日本女性知識人との対話
―『婦女生活』と神近市子主宰『婦人文藝』(星野幸代)
第三部 雑誌文化と戦時の力学
第九章 戦前日本婦人雑誌空間における〈アジア女性〉との出会い
―一九三五年から一九四五年の『主婦之友』『婦人俱楽部』から(木村涼子)
●コラム7 民国雑誌『玲瓏』における「表象の自律性」と情動的レスポンス(陳 晨)
第一〇章 インターナショナル・フェミニズムから帝国のフェミニズムへ
―『輝ク』における日中女性の連帯とその変節 (楊 佳嘉)
第一一章 日中YWCAの葛藤と模索
―機関誌『女子青年界』『女青年』の言説を通して(石川照子)
第一二章 一九三〇―四〇年代満洲の女性雑誌と戦時下の女性規範
―『女性満洲』を中心に(尹 芷汐)
●コラム8 「満洲」の女性雑誌(魏 晨)
主要人名索引
著者プロフィール
飯田祐子(編集)
愛知県生まれ。名古屋大学大学院人文学研究科教授。
主著に『彼女たちの文学』(名古屋大学出版会)、『家族ゲームの世紀』(現代書館)、共編著に『プロレタリア文学とジェンダー』(青弓社)など。
呉佩珍(編集)
台湾高雄市生まれ。国立政治大学台湾文学研究所教授。
主著に『太平洋を越える新しい女―田村俊子と人種・ジェンダー・階級』(文学通信)、『福爾摩沙與扶桑的邂逅』(国立台湾大学出版センター)、共著に『帝国幻想と台湾 1891-1949』(花鳥社)など。
孫知延(編集)
慶熙大学日本語学科教授、グローバル琉球・沖縄研究所長。
主著に『戦後沖縄文学を考える方法』(ソミョン出版)、訳書に『沖縄 スパイ』(インパクト出版会)など。
星野幸代(編集)
東京都生まれ。名古屋大学大学院人文学研究科教授。
主著に『翼賛体制下のモダンダンス』(汲古書院)、『日中戦争下のモダンダンス』(汲古書院)、共編著に『二戰前後的中日身體表現藝術』(台湾:新銳文創出版社)など。
陳晨
中国内モンゴル自治区生まれ。上海師範大学外国語学院講師。
著書に『現代中日女性作家論:トランスナショナルフェミニズムの視座から』(北京:中译出版社)、共編著に現代女性作家読本22『金原ひとみ』(鼎書房)など。
張文聰
台湾南投県生まれ。中華経済研究院日本センター・シニアプログラムスーパーバイザー。
翻訳に『中國共産黨一百週年的真實』(現代學術研究基金會)、『反事實歴史小説:黄錦樹小説論』(時報文化出版)など。
魏晨
中国天津市生まれ。岐阜大学地域科学研究科助教。
主著に『「満洲」をめぐる児童文学と綴方活動――文化に潜む多元性、辺境性、連続性』(ミネルヴァ書房)、共著に『中外児童電影経典解読』(中国電影出版社)など。
石川照子
東京都生まれ。大妻女子大学比較文化学部教授。
主編著に『戦時上海のメディア』(研文出版)、『女性記者・竹中繁のつないだ近代中国と日本』(研文出版)、『日中戦時下の中国語雑誌『女声』』(春風社)など。
木村涼子
大阪大学大学院人間科学研究科教授。
主著に『〈主婦〉という職業』(吉川弘文館)、『家庭教育は誰のもの?』(岩波書店)、『〈主婦〉の誕生』(吉川弘文館)など。
光石亜由美
山口県生まれ。奈良大学文学部国文学科教授。
主著に『自然主義文学とセクシュアリティ 田山花袋と〈性欲〉に感傷する時代』(世織書房)、共編著に『ケアを描く 育児と介護の現代小説』(七月社)など。
中谷いずみ
北海道生まれ。二松学舎大学文学部国文学科教授。
主著に『時間に抗う物語』(青弓社)、『その「民衆」とは誰なのか』(青弓社)、共編著に『プロレタリア文学とジェンダー』(青弓社)など。
笹尾佳代
徳島県生まれ。同志社大学文学部教授。
主著に『結ばれる一葉』(双文社出版)、共編著に『プロレタリア文学とジェンダー』(青弓社)、『女性と闘争』(青弓社)など。
尹芷汐
中国四川省生まれ。名古屋大学大学院人文学研究科准教授。
主著に『社会派ミステリー・ブーム』(花鳥社)、共著に『ケアを描く』(七月社)など。
楊佳嘉
中国山西省生まれ。厦門大学外文学院・日本語教育研究センター助理教授。
共編著にWomen in Asia under the Japanese Empire(Routledge)、論文に「中本たか子「朝の無礼」論」(『比較文化研究』161号)、「平林たい子と彼女の「満洲」体験物語」(『北東アジア研究』32号)など。
張ユリ
韓国大邱生まれ。韓国慶北大学日語日文学科副教授。
主著に『1930년대 일본, 잡지의 시대와 대중』(역락)、共訳に『감각의 근대 1, 2』(어문학사)など。
版元から一言
鹿ヶ谷叢書、記念すべき10冊目は、『東アジアの女性雑誌文化1930-1945』となりました!
2018年より積み上げられました研究会・シンポジウムに何度か同席させていただいてきた成果を、このように刊行でき、とても嬉しく存じます。
本書の末尾でも触れられていますが、本書の前提に、2014年から3度の科研プログラムがございます。
『女人芸術』を中心としたご研究は、すでに下記のように2冊の成果として公表されており、本書はその10年以上の営みの、一つのまとめにあたるといえます。
『雑誌「女人芸術」と一九三〇年前後の文化生産』(飯田祐子/中谷いずみ/笹尾佳代編、青弓社、二〇一九年)、『プロレタリア文学とジェンダー 階級・ナラティブ・インターセクショナリティ』(飯田祐子/中谷いずみ/笹尾佳代編、青弓社、二〇二二年)
そして、今回のお仕事の最も大きな特徴と言えるのは、やはり中国、台湾、朝鮮、日本と、それぞれの担当班をベースに国境と言語をこえて、同時代の女性✕雑誌の諸テーマを扱っていることでしょう。
この本を通読していただく実りの一つが、満洲を含む諸地域の女性雑誌の基本的な枠組みを知ることができることでしょう。
共同研究という方法を深められてきた成果だと思うのですが、「雑誌から浮かぶ国際的な問題に対する意識、文化生産への寄与、そして雑誌が生成した女性たちの関係性」という3つの柱が、それぞれの論考に活かされ、一冊の本として統一感のある、すばらしい共著を形にさせていただいたと感じております。
関西でお仕事をされておられます、光石亜由美先生(奈良大学)、笹尾佳代先生(同志社大学)のご協力には、版元として心から感謝です。
そして、バタバタとした編集パートナーに辛抱強くお付き合いいただき、本当にきめ細かく編集をまとめていただきました飯田祐子先生(名古屋大学)に、心から感謝を!
お読みいただければ、これまでの共同研究の成果と歩みを、読者の方も深く受けとめていただけると思っております。
そしてこの本を、友人である京都で活躍中のアーティスト、レオニーの作品で飾ることが出来たのは望外の喜びです。
この作品と本の中味の「シンクロニシティ」については、飯田先生のお言葉をお借りさせていただきます。
「本書の装幀に、オランダご出身で中国と日本で活動されている女性アーティストLeonie Rayさんの作品を提案してくださった。作品をご紹介くださったとき、様々な色や形が混じり合い、波のような線が海を超えて何かが伝わる様を現しているようで本書の企図にぴったりだと感じられて、胸が高鳴った。」(本書「あとがき」より)
国境を越えた、広がりのある一冊に関わらせていただき、版元にとっても実りある仕事になりました。
編者、そしてご執筆者のみなさま、ありがとうございました!

