【鹿ヶ谷叢書002】
越境の在日朝鮮人作家 尹紫遠の日記が伝えること ―国籍なき日々の記録から難民の時代の生をたどって―

朝鮮「解放」前後の壮絶なる日本―朝鮮半島間の移動経験。
1945年以降に引かれた「朝鮮―日本」、「北―南朝鮮」(38度線)という新たな2つの「境界線」を自らの足でこえた忘れられた在日朝鮮人作家の戦後日記から浮かぶ数多の経験と思い。
戦後を生きた在日一世の日記、初公刊!

金素雲訳編『朝鮮詩集』(岩波文庫)の解説者として世に知られる、朝鮮人作家、尹紫遠(ユンジャウォン、1911-1964)。1942年、朝鮮人初の短歌集を刊行した人物でありながら、戦後の歩みはこれまで注目されたこともなく、その存在は今ではほとんど忘れ去られている。
日本出身の妻と暮らした尹紫遠の戦後の日記には、「密航」・親族離散・朝鮮人差別・生活苦・文化交流、そして戦後日本で在日朝鮮人が「書く」営みの困難さを伝える断片的記述に満ちていた。様々な在日朝鮮の人たちの声を拾ってきた研究者の解読とともに、日記は豊かに「在日」の経験を現代に語りだす。

1942年というまさに戦争の最中、金素雲の勧めもあり、「朝鮮最初の歌集」と銘打たれ、「魂の哀鴻史」と評された自伝的短歌集『月陰山』(タルウムサン)、1946年夏に発生した南朝鮮でのコレラの流行により強化された連合軍と日本による朝鮮人管理・海洋警備を背景に、玄海灘を命懸けで渡る人々を描いた「密航者の群」など未刊行の重要作品をあつめた作品選集とともに、3冊同時刊行。確認できる全ての作品・随筆・日記を揃えた『尹紫遠全集』の電子版(MeL,Kinoden)も刊行します。


琥珀書房YouTubeチャンネルでは、上記の紹介動画(5分+推薦文公開)に加え、尹紫遠が死の一〇日ほど前に病床にて自作朗読を録音した音声データも公開しています。

 書籍概要

『越境の在日朝鮮人作家 尹紫遠の日記が伝えること―国籍なき日々の記録から難民の時代の生をたどって―』

  • 著: 尹紫遠・宋恵媛
  • 回想:尹泰玄(尹紫遠長男)
  • 定価: 本体3,500円+税
  • ISBN:978-4-910723-28-0
  • 体裁: A5判並製、約320頁
  • 2022年12月刊行

 目次

(推薦文)
世紀をこえるグローバル移動の物語 西川祐子
在日朝鮮人文学史の〝失われた環〟 平田由美
体験と虚構の中に探る戦後史の共有の(不)可能性 日比嘉高
日記がつむぎだす「もう一つの戦後史」 板垣竜太

尹紫遠日記を読む  解説 宋恵媛
父と母の思い出 尹泰玄
尹紫遠日記(1946.9-1964.8) 尹紫遠
『月陰山』巻末記
あとがき
尹紫遠作品一覧
尹紫遠が鑑賞した映画一覧
人名索引

 著者プロフィール

尹紫遠(ゆん じゃうぉん)

尹紫遠(本名:尹徳祚:ゆんとくちょ) 
1911年、朝鮮半島蔚山に生まれる。幼い時に朝鮮総督府の土地調査事業により一家は土地を失う。書堂(漢文を中心とした私塾)と植民地下の初等教育を受ける。13歳の時、長兄を頼り単身横浜へ。1942年の時に自伝的短歌集『月陰山』を刊行。徴用を逃れるため1944年に朝鮮半島北部へ(現在の北朝鮮、松林市)。日本軍の武装解除のため米ソ軍の分割占領ラインとして引かれた38度線をこえ南朝鮮へ移動。「解放」後の混乱する南朝鮮を目の当たりにし、同時代の多くの朝鮮人がそうしたように日本への再渡航を決意。1946年に蔚山から日本へ「密航」。山口県にたどり着く。戦後日本で小説家を志す。1947年5月、金達寿、 金元基、李殷直らとともに在日本朝鮮文学者会を結成し短期間であるが責任者を務める。東京にて朝鮮国際タイムス社勤務、行商などを経て、クリーニング店を妻と経営。戦後の著書に『38度線』(早川書房、1950年)がある。日韓国交樹立の前年、戦後は一度も故郷の土を踏むことなく、1964年に死去。混乱の時代に玄海灘に沈んだ朝鮮同胞を胸に、死の間際まで自身の壮絶な越境の経験と、その背景になった時代状況を書こうとした。

宋恵媛(そん へうぉん)

博士(学術)。著書に『「在日朝鮮人文学史」のために──声なき声のポリフォニー』(岩波書店、2014年/ソミョン出版[韓国]、2019年)、編著に『在日朝鮮女性作品集』(緑蔭書房、2014年)、『在日朝鮮人文学資料集』(緑蔭書房、2016年)等、訳書にキースプラット著『朝鮮文化史──歴史の幕開けから現代まで』(人文書院、2018年)がある。

 尹紫遠日記に登場する著名人・文化人

武者小路実篤、柳田国男、秋田雨雀、保高徳蔵、三好十郎、湯浅克衛、中野重治、西野辰吉、小松清、古山登、武井昭夫、押川昌一、金素雲、金永吉(永田絃次郎)、李北満、金熙明、金達寿、許南麒、元容徳、金元基、張斗植、李殷直、康玹哲(順不同)

 版元から一言

2019年に宋恵媛さんの尹紫遠の論文を拝読した時から、これは世に広く問わねばとの思いをもち取り組んだ本です。そこから尹紫遠の長男である尹泰玄さんにお会いし、日記や作品も読んでいく中で、この歴史に埋もれた作家の記録や人生をどのように伝えられるだろうと自問しつづけた3年でした。
「いま出版社に何が出来るか」ということを問う中で、宋恵媛さんの研究への情熱とすばらしい解説に後押しされ、作品集刊行、動画公開、電子版全集と多くの新しい取り組みにつながりました。
植民地期や戦争中はもちろんのこと、在日一世の人生についての記憶もうすれていると聞きます。そのような中、読者が一人の日記を通して、歴史や人生に思いを馳せることは大事なのかなと感じます。そして、エゴドキュメントである日記は、本当に多くのことを語ってくれる資料だとあらためて実感した仕事でした。在日朝鮮の人たちに関する記録そのものの希少性を痛感させられた仕事でもありました。一世の日記初公刊となるこの仕事を形にできたことを心から嬉しく思います。東アジアにおいて再び難民が生じるような事態がおきないことを願いながら名付けました長いタイトルの本書を、ぜひご一読ください。